もう海へはいかない 38(完結)



「そうかな?」

「・・・でも、僕のお願いは全部叶ったかんじだよ?」

「肉体の苦痛や死から開放されて、何度でも復活できるっていうし」
「それに風に乗って遠くにも、いろんな国にも行ける」
「・・・まあ、人間や動物にも生まれ変わる子はいるんだけど・・・」
「僕以外にも、雨粒になった子10人くらい知ってるよ!」
「他にも絵画の一筆や、楽譜の一小節に生まれかわった子もいるんだ」
「みんな次では望みの命を貰って幸せになるんだ」

水音は、それこそ歌うように楽しげに語った。

「・・・斬新だな」

っていうか神様って本当にいるんだ、と俺は遅ればせながら感心した。

「で、雨粒になってから、わりとすぐあの公園で昌樹に遇ったんだよ」
「目が合った瞬間に僕の世界が変わったんだ」

「目・・・合った・・・んだ?」

「うん!僕が空から落ちてきたときにね」

「僕達、生まれ変わる時、神様から幸せになるための3つの魔法と9つの奇跡を貰ったの」
「魔法は自分で起すものだけど、奇跡は神様のものだから、いつ起きるかわからない」
「だけど、昌樹と遇った瞬間にわかったんだ」
「これが一つ目の奇跡なんだって」
「一目惚れって本当にあるんだね」

そう言ってから、水音は取ってつけたように笑顔を作って見せた。
だがその顔も瞬く間にみるみる歪み、また玉のような涙をポロポロ零した。


「だから僕、それから昌樹を探したんだよ」
「それがひとつ目の魔法」
「こんな風じゃなきゃ、きっと昌樹には遇えなかったって思う」
「だけど、僕、昌樹からしたらユーレイみたいなものなのかな?って」
「一応・・・実体はあるんだけど、やっぱ人間とはちょっとちがうし」
「なんっていうか、ちょっと不安定っていうか、僕もよくわかってなかったんだけど・・・」
「それに・・・あんなところ見られちゃったし」
「こんなこと話したら、きっと昌樹の僕を見る目も変わってしまうでしょ?」


零れる涙を何度も手で拭いながら、水音は懸命に話し続けた。
俺は、正直なところ、そんなことはどうでもよかった。
水音が目の前にいる、それだけで充分だった。
そこにどんな事情があったって構わない。
だけど、水音が健気に打ち明けようとするのを、止めることも出来なかった。
受け止めよう。
彼が話す気なら、俺は全て聞かなきゃいけないんだ。


「・・・だから、戻って来ちゃっていいのかなって、迷ったんだけど」
「一度だけ、昌樹のこと見れたらって・・・」
「でも昌樹に嫌われてたらって思ったり・・・」

「水音、もういいよ」
「そんなこと考えなくていい」

俯く水音を抱き寄せた。

「戻ってきてくれてよかった」

膝立ちになったまま俺の胸に寄りかかり、水音が小さく『ごめんね』と言った。
やっと落ち着いたらしい、安堵の表情を浮かべて俺を見上げ、微笑んだ。
涙で濡れた顔を拭ってやる。
その俺達の足元を間を割るようにして、クリームが通り抜けた。
俺の無防備な膝裏を尻尾でくすぐって来た。


「クリーム!やめて」
「今、大事なところなんだから!」


水音が声をたてて笑った。
良かった。いつもの水音だ。


「贅沢をいうなら、もっと早く帰ってきて欲しかった」

水音の裸の背中を撫ぜながら、冗談めかして言った。
勿論、本音だ。
本当なら積もる恨み言を言ってやりたかったが、目の前の彼を見ると、そんな気分は吹き飛んだ。


「昌樹、ごめんね」
「でもこれでも早い方だったんだよ?」
「この季節だったから・・・その」
「台風に乗って来れたからまだ・・・」

俺の頭の中で、電灯が点った。
だんだんこの"ノリ"がわかってきた気がする。

「・・・つまり、こういうこと?」
「水音は、一旦は海に溶けて、」

「溶けるっていうのはちょっとしたうんだけど!うまくいえないんだけど・・・」

「うん、でもまあ、それで沖に流されて、で、どの辺まで行った?」

「わかんない」

「・・・で、どっかの段階で蒸発して~」

「うん、そう、で台風と一緒に戻ってきた」


神妙な顔つきで言うもんだから、噴出してしまった。
俺は久しぶりに声を上げて笑った。
胸の閊えが取るのがわかった。
数ヶ月ぶりの清々しさだった。
同時に少し複雑な気分だった。
水音が俺と遇う前に一度死んでいるという事実が、ここに来てどうしようもなく悲しかった。
途端になんだか泣けてきた。
もっと早く遇っていたら、俺達はこうはなっていなかったろう。
だから、これでいいんだ、と自分に言い聞かせ、俺はなけなしの涙をすすり上げた。

「なんで自分から海に入ったの?」

「・・・それは僕もよくわからないんだ。気付いたらああなったっていうか・・・」

「そういうものなんだってこと?」

「うん、そうなんだって思う。僕もあんな風になるとは思ってなかっただけど・・・」

「そっか。俺もゴメンな。怖かったろ?」

「うん、でも帰って来れたから・・・」

「うん、良かったよ」
「だって俺、水音に言いたいこと、いっぱいあったんだ」
「一緒にやりたいこともあるし」
「それにまだデートも終わってないし!」

「うん?」

「今度やり直そ?」

「うん!うん!」

水音は何度も頷いた。
そして俺の目を見返し、拗ねたように唇を尖らせ、ちょっと困った顔で
『でも、もう海には行かないよ?』と呟いた。

「当たり前だ。もうあんなのは懲り懲りだ」


水音がきつくしがみ付いてきた。
俺も確かめるように強く彼を抱きしめた。


「幸せになろうな?」

「無理だよ。今すっごい幸せなのに」
「これ以上は無理」

水音がまた俺の胸に顔を押し付け、くぐもった声でモゴモゴ返してきた。
照れてるのか?なんだか水音らしくない。
だって、いつも殊勝らしい顔しながら結構ガツガツくるタイプじゃないか。

「そんなことない、期待してて」

「昌樹・・・がんばりすぎだよ?」


「うん、でもそのために俺達は居るんだろ?」
「それに、こんなの頑張りのうちに入らないよ」
「水音と一緒に幸せになる」
「誓っていいよ」
「今ならきっと、神様もみてる」
「ついでってわけじゃないけど・・・お礼言っとかなきゃね」

「うん、・・・神様、ありがとう!」

「この奇跡に感謝します」


こうして、俺達の時間はまた進み始めた。
今よりもっと幸せになるために。






                           - 終 -

※ ↓↓↓ この下にスクロールで、ほんの少しだけ、追記:作中補足(とイラスト)があります。お気が向かれましたら、あわせてご覧下さい。



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これにて 『 もう海へはいかない 』 は”おしまい”です。
拙い作品に長らくお付合い下さり、
本当に本当にありがとうございました!
また、お目に掛かれますことを願って!See you !


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※ エクトプラズム に関しては、wikipediaなど参照下さい。
特に厳密に定義されているわけではないようですが、
生命のエネルギーを司るゲル状の半透明、半物質っぽいものと考えられており、
本作中においては(一回も名称は出てこないですが)、ざっくりと『霊体、魂』といった認識の下に描かれています。

水に溶け易い物質と考えられており、水音の場合、彼の体を形成している水が雨水⇒真水であることから、
海水の浸透圧により組織が崩壊した的ないい加減な設定なんですが(そこはファンタジーですから!)、
服はどうした?的な突っ込みも、そこはファンタジー!ファンタジーだから!!野暮は言いっこナシなのですぜ!
その辺りを作中でクドクド描いても面白くないので、すっとばしました!・・・一応、伏線?回収までに(笑)
・・・いろいろと大小オカシイことがある筈だと思うと、恐ろしく、なかなか最初から読み返せない今日この頃・・・
ほとぼりが冷めるのを待っている(笑)

※ 次回の更新予定は、カテゴリ 『 次回更新予告 』 にて!
  次は、念願のファンタジー代劇なのです!!イヤッホウ!






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