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もう海へはいかない 36



俺達は抱き合ったまま部屋に雪崩れ込んだ。
足が縺れて、そのままキッチンの床に地味にダイブしてしまった。
背中をぶつけたのと、タブレットを下敷きにした以外は、巧く転んだ方だと思う。
呻きを堪えながら、水音の体の重みを確かめた。


「昌樹!大丈夫?!」

「うん・・・水音は?どこもぶつけてない?」

「うん、昌樹がクッションに・・・」

そう言いながら慌てて立ち上がろうとした水音を、手を伸ばして引き寄せた。

「待って」
「まだ余韻に浸ってたいの」


もう一度抱きしめる。
懐かしい、恋しい、水音の感触。
柔らかい髪や肌。体温。
そうして俺達はしばらくの間、キッチンの床に寝転がって抱き合った。


水音が俺の腕の中で体を縮めながら、顔をこちらにねじ向けた。


「昌樹、ずっと黙っててゴメン。全部話すよ。全部・・・」

「うん」
「・・・今すぐじゃなきゃダメ?」

「えっ?!」

水音が体を起そうとする。

「話さなくていいの?!」


大きく見開いた目、目玉が転がり落ちそうだ。
きっと泣き過ぎのせいだ。真っ赤でちょっと腫れぼったくなった頬。
でも、この部屋で一緒に過ごしていた時と変わらない水音の姿だった。
彼の姿も仕草も全てが愛しく見えた。
柔らかい髪を撫でる。
細くて癖のない真っ直ぐなしっとりとした綺麗な黒髪。
いつまででも撫でていられそう、指に絡むそれを眺めた。


「ちがう。話してもらうけど」
「この流れからすると、ここは一先ず仲直りセックスかな?って・・・」

「・・・」

「ダメ?」

「昌樹、許してくれくれるの?」

「許すとか、許さないとか、そういう話じゃない」

「・・・うん」

「・・・よかった、もう逢えないかと思ってた」
「ありがと、戻ってきてくれて」
「ずっと、もう一度逢えたら言おうと思ってたんだ・・・」
「水音のことが好きだって」
「愛してる」
「だからどこにも行かないでって」
「ずっと傍に居て・・・」


水音の大きな目からまた大粒の涙がポロポロ溢れ出した。
ちょっと泣き過ぎなんじゃないか?
あんまりにも止め処なくて、見てる方が不安になるほどだ。


「ありがとう」
「・・・昌樹、待っててくれたんだ」

「うん」
「それと、あと、お姫様抱っこも絶対やっとこうって」

「!ぇ・・・えっと、その前に、シャワー使っていい?」

「うん、溶けたりしないなら・・・」
「でも、もうちょっと待って。まだ、もうちょっとだけこのまま」


ふと水音の背後に目をやると、玄関のドアが開きっぱなしだった。
まあ、いいか。
水音を抱きしめたまま、俺は目を閉じた。
いいよ。そんなのどうでもいい。
今目の前に水音が居さえすれば、それ以外のことは後でいい。


「なんか変。ちょっとだけだけど・・・いつもの昌樹じゃないみたい」

「水音だって泣き過ぎ」
「いつもみたいに笑って」

「・・・昌樹、もしかして僕の本読んだ?」

「うん、水音のこと、知りたかったからね」
「全部調査済み」

水音の手が俺の頬を包み、唇を重ねてきた。

「昌樹、愛してる。遇った時からずっと」
「僕の王子様・・・」








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※ 次の更新は、翌日 12:00 です。 ありがとうございました!

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