もう海へはいかない 31



 ◇ ◇ ◇


軌道修正しよう。
俺はいつまでも"水音"のことを引き摺っているわけにはいかない。
卒論に試験、全てが今に賭かっている。
いままでやってきたことを考えると、何れも落とすわけにはいかなかった。
正直なところ、頭がオカシクなる程に勉強した覚えもなければ、
プレッシャーを感じていたかも怪しい。
だが、それでも俺は、自力で自分を立て直さなければならないと考えた。


それには一連の"水音"の出来事を、一刻も早く頭から追い出すことが必要だった。
追い出すと言ったって、俺はそうと決めてすぐさま無条件にそれを実践できてしまうような人間じゃない。
それには俺なりの"落とし所"が必要だった。


"水音"は、今現在、俺の前には居ない。
それが純然たる事実だった。
俺が認識していないということは、今の時点で彼は存在しない人間なのだ。


そして、俺は少し前まで"水音"を存在していたものだと考えていた。
根拠はこの部屋に残る彼の痕跡だ。
今思えば、写真の一枚でも撮っておけばと後悔したが、
そんなものがあったらあったで、余計に収集がつかなくなりそうだとも思った。
今の時代、その気になれば、偽の写真だって画像だって簡単に用意できる。


俺は多分、一時的におかしくなっていたのだろう。


そして恐らく、そのついでに"水音"という架空の人物を作り上げ、
彼の存在を裏付ける痕跡を、あたかもその人物の持ち物であるかのように自分で用意し、
彼が実在していたかのように装った。
なんのためにそんなことをと自分でも不思議だが、おかしくなっていた時の事だからわからない。
そしてそれ故に、それ等を記憶していなかった、ということも考えられる。

なんだか、小説や映画のオチで使い古された、つまらない顛末だが、
それが現実的に見て一番妥当な落とし所だと思えた。


"水音"は俺が作り出した妄想だった。


そう考えると、全てのこれまでの顛末に合点がいく。
第一、男と別れた孤独なゲイの所に、
ある日突然、肉食系の可愛いゲイの居候(元彼にも似たタイプ)がやってくるなんて、
どんだけ都合のいい妄想だよ?
想像のレベルが"盛りのついた中学生"だ。
我ながら、恥ずかしい。


それに考えてみろ。
あの猛獣クリームが俺以外の人間に牙を向かないワケがない。
クリームをペットホテルに連れて行ってくれた親父の奥さんだって、
ホテルの人だって、奴の凶暴さには辟易していた。
ましてや"元彼"なんて、仔猫の時から顔を合わせていたのに、懐かないばかりか積極的に攻撃さえした。
最終的にはそれで"彼"の足が遠のいたくらいだ。
だけど"水音"とは、最初から俺と同じか、それ以上に上手くやっていた。
単に相性がいいんだと思っていたが、俺に都合よく作られた妄想なら上手くいって当然だ。
あの時点で気付いておくべきだったんだよな。









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※ 次の更新は、翌日 12:00 です。 ありがとうございました!

いつまでこの調子なんだと不安に思われる方に朗報です
! 完結まで、残すところあと7日です !

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