もう海へはいかない 29



水音はどこかにいる。
いないのであれば、やはりあの日、海の中に溶けてしまったのだと、
俺は真剣に考えていた。
脳裏に焼きついて離れない、水音の溶け崩れていく姿を、あれから何度となく夢に見た。
それ以外の日は、やはりこの部屋で一緒に暮していた水音の夢。
あれ以来、水音の夢を見ない日はなかった。


俺の部屋にいる水音。
俺を見上げて笑う彼の顔。
溶けていく彼の体、
不安げに瞬いた瞳、
手を繋いだ時の、華奢な指の感触。
水面でハンカチの様にユラユラと鉈びいて消えた彼の腕、
拗ねたように口を尖らせて俺を見る水音。
覆いかぶさる彼の柔らかい肌、体の重み。
怯えて俺の名を呼んだ、悲鳴に似た声、
風の音に混じって流されていった最期の囁き・・・


それらが交互に俺の頭の中で明滅する。
本当の水音はどっちなんだ?
全部本当の彼なのか?
俺の記憶の中の水音。
今はいない水音。
本当にいたんだろうか、
そもそもいなかったんだろうか?
俺の目の前で消えたのに、なぜその理由がわからなんだろう?
なぜその理由を、俺は理解できないんだろう?


ずっとそう考え続けてきた。
ずっと彼を探してきた。
ずっと、あの日から、
ずっと、ずっとそう・・・・


キッチンの床に座ってクリームをあやしながら、俺は途方にくれた。
思考を整理したかったが、どこから手をつけていいのかわからなかった。


俺は何を知っている?
そして、俺は何を知らないんだ?
俺は????


・・・指先が痺れてる気がする。
俺は自分の掌を何度か反して、動いているのを確認した。
そういえば体が冷たい。
自分の体が自分でないような、なんとなく宙に浮いているような、
現実味がなく、ひどく曖昧な感じがした。
頭のどこかが麻痺してる。
なんだかいろんなことが徐々に遠ざかって行く気がする。
心地良いのか悪いのかわからない。
不思議と不安は感じなかった。


この状態なら、いろんなことを感じなくて済むのかな?
それでいいんだったら、まあ、悪くないのかもしれない。
自己防衛本能ってやつ?
いやいや、どう考えても良い状態なわけないだろう。
本当に???何もわかってないのに?
俺は・・・俺は、どうすればいいんだろう?
なんだかいろんな考え方の基準が、根源から崩れていってる気がする。
なんでこんなことになってるんだろう?
大袈裟だよな?
人が1人、目の前で溶けていなくなった、ってだけで。








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   ”水音”のゲシュタルト崩壊\(^▽^;)/


※ 次の更新は、翌日 12:00 です。 ありがとうございました!

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