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陰蝕の鬼 - 七拾九 -

  ◇  ◇  ◇恭一郎が真砂の念者となったことは、その日の内に雀羅座の面々に知れることとなった。恭一郎と真砂が雀羅座の借家に戻った時、すでに雀羅座の者たちは皆起き上がっていた。風呂屋に向かおうと比呂が母屋の戸を開いたのと、戻ってきた恭一郎達とが鉢合わせしたことで、誰もが口に出さずとも、事の次第を把握するに至った。そうでなくとも、数日前には恭一郎が忍び込んでいたのも知られている。顔を合わせた比呂達も、多...

陰蝕の鬼 - 七拾八 -

「真砂どの」唇が離れた時、恭一郎は、真砂の顔を覗き込んだ。真砂は身を反らしたまま、恭一郎を見上げた。瞳が大きく瞬いていた。「良いのですか?」問うと、真砂は声を立てずに小刻みに何度か頷いてみせた。「もっと強く抱いてください」「真砂を温めてくださいませ」恭一郎は、真砂の項に手を入れ、そのまま重なるようにして床の上へと身を横たえた。頬を合わせ、首筋、襟元に顔を埋めた。真砂の髪も肌も、まだひんやりと冷たく...

陰蝕の鬼 - 七拾七 -

「恭一郎さま」真砂の声に恭一郎は、はた、と顔を上げた。背後の衝立の向こうに真砂が座しているのがわかった。身繕いが終わったのだろう。恭一郎が振り返ると、衝立の傍らから真砂がそろりと顔を覗かせた。「お寒いでしょう、早う火鉢の側に…」「そちらに火鉢はございますか?」「いえ、それ、そちらにございます」真砂の居る衝立の向こうの板の間を指し促した。だが、真砂は顧みもせず、そのまま恭一郎の傍ににじり寄ると、猫の...

陰蝕の鬼 -  七拾六 -

 ◇ ◇ ◇重苦しい雲が夜空を覆っていた。恭一郎は、吐いた息の行方を追いながら、空を仰いだ。 ― 雪になるやも知れぬ。手先、足先が悴むのに耐えながら、半刻、一刻はまだかと耳を峙てていた。どれくらいそうしていたか、ふと遥か先に目を転じると、暗がりの中を、ふわりふわり、と鬼火が漂い、滑るように恭一郎の目先十間ばかりの距離まで来たかと思うと、そのまま、ふい、と消えた。恭一郎が辺りを見回していると、今度は振り...

陰蝕の鬼 - 七拾五 -

◇ ◇ ◇翌日には、一冬を越すには充分な量の薪と炭、油を届けさせ、家賃も早々に先払いをし、恭一郎は借り受けたばかりの薄暗い小屋を見渡した。庭と井戸を隔てて母屋の勝手が見える他は、木塀に隔てられて、巧妙に奥まっている。 ― これならば、人目にも付き難い。恭一郎はため息混じりに呟いた。小屋は四坪ほどではあったが、小さいながらも独立した火元があり、上がり框を兼ねた板張りの奥に衝立で隔てただけの一間があった。...

陰蝕の鬼 - 七拾四 -

(↓↓↓↓ 以降の二回は<読まなくても結末には行けます!> あまり面白い場面でもない気もするので、最後まで省略するかどうか迷ったのですが、 書いちゃったので(笑)一応入れときます)◇ ◇ ◇明けて翌日、恭一郎は三条界隈から五条端まで、とりわけ武家の家屋の見える通りを選りながら、裏通りの垣根を見るともなく覗いてまわった。小路路地をくまなく歩き、二日目にとある武家の屋敷の裏口に立ち、恭一郎は垣根越しにその家...

陰蝕の鬼 - 七拾参 -

 ◇ ◇ ◇いつの間にか眠っていたらしい。誰ともなしに家人の動き始める気配に起こされて、恭一郎は目を開けた。まだ夜明け前のようだった。納戸の中に停滞していた闇が薄まり始めていた。途端に昨夜のことを思い出し、腕の中の真砂の様子を窺った。真砂も丁度、今しがた目覚めたという体で身動ぎをした。手繰り寄せるように腕を上げ、瞼をこすりながら、辺りに首を振り向けた。「眠ってしまっていたようです」恭一郎が囁くと、真...
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